『茶と糧菓』陶作家 安藤雅信・「菓子屋ここのつ」溝口実穂 著

『茶と糧菓-喫茶の時間芸術』発売。

陶作家で茶文化にも造詣の深い安藤雅信さんと、東京・浅草で茶寮「菓子屋ここのつ」を営む溝口実穂さんと日英バイリンガルで本を作りました。
溝口さんの菓子をして「和菓子とも洋菓子ともつかない、菓子と料理の境を超えた味と食感をたたえ、一定量の大きさの入れ物を”糧”としその範囲で展開され続ける”菓”、すなわち糧菓」と定義づけた安藤さん。親子ほど歳の離れたふたりの作り手/表現者ですが、お互いを高め合いながら、茶、菓子、器、彫刻を交えた茶会をともに作り上げているのを知ったのは2年前。安藤さんの著書『どっちつかずのものつくり』を編集している時でした。いろんな意味で「どっちにもよらず」に新しい道を切り開いているふたりは、歳の差などもろともせず、語らずとも分かりあっているように見えて。。。いい意味で日本人らしくない関係性、だけど日本人としてやるべきことは何かをいつも考えているのです。そこに大いなる希望を感じました。気づいた時には「本を作りましょう」という言葉が口をついて出ていました。

普段溝口さんの茶寮「菓子屋ここのつ」では写真撮影はできませんし、詳しいレシピは公開されませんが、こちらには糧菓と茶会の美しい写真とともに食材や菓子への偏愛を綴ってもらったり、やや詳細なレシピも書いてあったり。ひるがえって、禅から始まった日本の喫茶文化の革新を語る安藤さんの現代の茶数寄論には、この国の文化のこれからに対する期待と可能性が読み取れ、私たちを刺激してくれます。静と動、今と昔、易と難、早熟と成熟、やっぱりまた「どっちも行き来する」本になりました。
個人的には、出版物の意味は、人間の知を残すことと、まだ見ぬ世界を提案することにあると思っています。出版不況が続くなか前例のない=マーケティングデータのない企画を通すのは簡単ではないし、通ったとしても予算は。。。だけど知恵を絞って具体案を示していけばなんとかなる。そうして格闘する沢山の編集者たちの、私もその一人でありたいし、作り手のことを本にしていきたいと思います。そう思わせてくれた安藤雅信さん、溝口実穂さん、ふたりに共感し伴走してくれたデザイナーの菅渉宇さん、カメラマンの鈴木静華さん、小学館さんに感謝。小学館のウェブサイトでは中身をチラっと見られます。